公共事業悪玉論、建設業悪者論が世間に大きく広まった時期が過去日本にあった。1990年代のことである。「ゼネコン汚職」への国民の怒りが高まり、財政危機も叫ばれ出したころと重なる。バブル崩壊で社会も混乱していた
▼その後何が起きたかはご存じの通り。公共事業費は坂を転げ落ちるように減り、建設業者は問答無用で淘汰(とうた)の荒波に投げ込まれた。理不尽と思われることも多かったのである。本当の不幸はここからだった。予算がないため各種施設の維持補修が遅れインフラは劣化。計画的に進めるべき災害対策も後手に回った。本来なら防げた事故や災害もあったはずである。さらに雇用の受け皿が消えたため失業者も増えた。結果、日本経済は一層縮んだのである
▼裾野の広い産業を痛めつけると、そうなるということだろう。事情は全く異なるが、今は観光産業が危地に立たされている。コロナ禍で苦しむ姿を見ていると人ごととは思えない。もう何カ月もほぼ収入ゼロの日が続く。起死回生の切り札に政府は旅行代金の半分を支援する「Go To トラベル」キャンペーンの前倒し実施を打ち出したが、批判の集中砲火を浴びている。〝早過ぎる〟が一番の理由らしい
▼ただ新規感染者が多い東京都も重症は7人のみ。全国の死亡者はこのところほとんど増えていない。一方で観光はひん死の状態にある。かつて建設業者にしたように「座して死を待て」と無言の圧力をかけるのはあまりに酷だし筋も通るまい。産業をつぶしては元も子もないのだ。そろそろと動き出したい。