青年期は際限の無い可能性に期待を膨らませると同時に、先の見えない未来への不安におびえる時期でもあるということだろう。「青年の日はながくしてただつよくつよく噛むだけのくちびる」光森裕樹。まだ感受性がみずみずしいだけに、唇をかむような1日はいつまでも終わらない気さえして苦しい
▼圧倒的強さを見せつけて勝利したこの17歳の青年も、そんな唇を強くかむ長い1日を何度も経験したはずである。将棋の棋聖戦で、挑戦者の藤井聡太七段が渡辺明三冠(棋王、王将、棋聖)を破りタイトルを奪取した。17歳11カ月での初戴冠は、1990年に屋敷伸之九段が作った18歳6カ月の最年少記録を更新する快挙だ。天才とも呼ばれるが、ここに至るには自分を厳しく鍛え上げてきた毎日の積み重ねがあったに違いない
▼勝負を決めた16日の5番勝負第4局では中盤まで渡辺二冠にやや押されていたものの、競り合いから逆転し、最後には得意の戦型「矢倉」で相手をねじ伏せた。舌を巻く強さである。藤井棋聖は現在、王位戦7番勝負にも挑戦している。札幌で先週行われた第2局にも勝利し、木村一基王位相手に2連勝とこちらも快進撃が続く。来月4、5日に予定される第三局を制すると王手である。熱烈な将棋ファンでなくとも気になるところでないか
▼ただ、若くしてタイトルを持つことは、常に挑戦を受けて立つ気の抜けない生活が早く始まることを意味する。歓喜と苦悩の間を揺れ動く難儀な日々がこれから長く続こう。棋聖はきのう18歳になった。棋士人生はこれからが本番である。