中高年世代にとって芸術家岡本太郎といえば、1970年に大阪で開かれた日本万国博覧会(万博)を象徴する「太陽の塔」と、テレビCMで氏が叫んだ「芸術は爆発だ!」の言葉だろう
▼太陽の塔は安易な技術信仰と進歩志向を批判し、人間は本来持つ原初の生命エネルギーを爆発させて生きるべきと呼び掛けるものだった。万博のテーマ「人類の進歩と調和」と真っ向対立する塔は当時大いに物議を醸したものだ。著書『自分の中に毒を持て』(青春文庫)に氏はこう記していた。「それは皮相な、いわゆるコミュニケーションをけとばした姿勢、そのオリジナリティにこそ、一般を強烈にひきつける呪力があったのだ」。既成概念をひっくり返すこのDNAは現代にも継承されていたようだ
▼「2025年日本国際博覧会」(大阪万博)のロゴマークが先週決まった。採用されたのは大阪市に本拠を置く「TEAM INARI」のアイデア。その何とも名状し難いデザインに早速賛否両論が入り乱れている。さまざまな形の赤い「CELL(細胞)」が関西圏を模したエリアを不規則に囲み、その中の5個には青い目(核)が付いている。コンセプトは「いのちの輝き」。CELLたちは生きているそうだ
▼ネットは発表直後から、「気持ち悪い」「かわいい」「怖い」「斬新」といった声であふれた。それもそのはず。左右非対称で造形としては不安定ながらなぜか目が離せない。選考委員会座長の安藤忠雄氏も「新しい時代を切り開く」と高く評価。これが岡本太郎の言う「呪力」なのかもしれない。