幅広い世代にファンを持つシンガーソングライター宇多田ヒカルさんの楽曲の一つに、『花束を君に』がある。NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌としてご記憶の人も多いに違いない
▼歌の後半にこんな一節があった。「花束を君に贈ろう 愛しい人 愛しい人 どんな言葉並べても 君を讃えるには足りないから 今日は贈ろう 涙色の花束を君に」。言葉では伝えきれない思いを花束に託すのである。愛しいわけではないが、こちらもやはり多くの人が本人に直接伝えられない気持ちを、支持という花束に代えて贈ったのでないか。安倍晋三首相が辞任を表明した直後に実施された世論調査で、内閣支持率が急上昇する現象が見られたという
▼共同通信の調査では56.9%と、辞任表明前の8月22、23日時点より20.9ポイント増加。日本経済新聞社の調査でも55%と、前回7月時点より12ポイント増えている。さらに日経は首相在任中の実績についても質問。肯定的に評価する人が全体で74%に上ったそうだ。辞任表明後に支持率がこれほど伸びるのも珍しい。少し前まで新型コロナ対応の迷走で支持率は発足以来最低に落ち込んでいたのである。病気が理由とはいえ、任期途中での辞任はさらなる下落の引き金になってもおかしくなかった
▼今回、各国首脳らが相次いで首相をねぎらう声明を発表したのも過去ほぼ見られなかった風景である。これも世界でリーダーシップを発揮した首相への感謝の花束のようなもの。毀誉褒貶(きよほうへん)はあれどたくさんの花束を受け取る功績はあった人だろう。