普段暮らしていて使う場面はまずないものの、ドラマなどでは時々聞く言い回しに「百姓は生かさず殺さず」がある。狙った者をとことん利用するため、細く長く金をしぼり取ろうとたくらむ悪人がよく言う言葉である
▼元をたどれば徳川家康の家臣本多佐渡守正信が著した『本佐録』の中の一節「百姓は財の余らぬように不足なきように治むる事、道なり」に行き着くそうだ。それが次第に変わっていったのである。言葉だけでなく、意味も変わっている。中途半端な境遇に置いて苦しみを持続させるというのが今の使われ方だが、本来は「道なり」の語から分かる通り、「程よくせよ」と教えるものだった。さて、それでは「加盟店は生かさず殺さず」に見えるこちらの本部の本音は、いったいどちらなのか
▼公正取引委員会がおととい公表したコンビニエンスストアを巡る調査報告書で、本部に虐げられている加盟店の実態が明らかになった。急成長のしわ寄せを、加盟店がそっくりかぶる構造だったらしい。近年、24時間営業強制や人手不足で苦境に陥る加盟店が増えている。ドミナント戦略と呼ばれる地域集中出店により各店の売り上げが減ることも多い。潤うのは本部ばかりで加盟店は青息吐息だ
▼ところが改善を求めても本部は交渉を拒絶。時には脅しともとれる対応に出るなど「優越的地位の乱用」が目に付くのだという。公取委は独占禁止法違反にあたる可能性もあると指摘している。コンビニ各社の本部はこの際、後世広まった俗説を信奉するのでなく、佐渡守本来の教えに学んではどうか。