たしなんでいる人には申し訳ないが、茶道というものが昔からよく分からない。同じ道でも剣道や柔道なら、元は命のやりとりに直結していた武技だから深く極めるのに何の不思議もない。しかし茶はただの飲み物である
▼それなのに正式な作法ではわざわざ小さな入り口から狭い茶室に入り、出された茶わんを2度ほど回した後に、三口半で飲み干す。さらに掛け軸や釜、茶器の鑑賞までしなければならないという。落語にもあくびの正しい仕方を教える「あくび指南」がある。本来は取るに足りない物事を芸や道の高みに引き上げたくなる癖が日本人にはあるのかもしれない。はやりの言葉を使えば「癖が強い」のである
▼笑った後に考えさせられるノーベル賞のパロディ「イグ・ノーベル賞」を日本人が14年続けて受賞しているのもそれと無関係ではあるまい。ことしの受賞者が先週発表になった。日本人を含む研究チームに贈られたのは「音響学賞」。ワニにヘリウムガスを吸わせ声の変化を調べたという。ばかげた話のようだが学術的な意味はあるらしい。ガスによって声が変わったことで、詳細には分かっていなかったワニの発声方法が判明したそうだ。人と同様に声道で音を共鳴させる仕組みだったという
▼あのこわもての爬虫(はちゅう)類の発声メカニズムが人と同じだったとは驚く。だからといって親近感は湧かないが。受賞者は京大霊長類研究所の西村剛准教授ら。第一線の研究者たちだ。そんな面々がワニにヘリウムを吸わせている姿を想像すると笑える。へそで茶が沸くかもしれない。