バブルが崩壊した後、日本経済は混乱を極めた。空前の規模で積み上がった不良債権が重くのしかかっていたためである。1990年代前半のことだ。政府は待ったなしの対応を迫られていた
▼公的資金を投入して金融機関を救済するか、資金は入れずに制度改善で乗り切るか、どちらかを選ばねばならない。当時、大蔵省は公的資金の投入に反対。制度改善案を強く押した。最終的に政府はその案を入れたのである。結果はご存じの通り。不良債権処理は遅々として進まず、金融危機は最悪の状態に陥った。悪夢である。倒産が相次いで人々は路頭に迷い、景気はさらに減速した。最初から公的資金を投入していれば、危機は避けられただろうというのが現在の見方である
▼この事実は政府や官僚が自信満々で下手を打つこともあることを教えている。菅義偉首相が早速着手したこちらの取り組みもそうならなければいいのだが。資金力などで劣る中小企業を支援する施策を定めた中小企業基本法の見直しである。中小企業は国内企業の99.7%を占める。戦後の経済発展を支えた立役者だが、近年は小所帯ゆえの開発力の弱さや生産性の低さが指摘されてきた。菅首相は税制優遇や補助金にメスを入れ、再編や経営統合を促す狙いらしい
▼先進諸国の中でも日本の生産性は低く、改善は必要だ。ただ新型コロナに痛めつけられた企業環境で下手を打つと、経営基盤の弱い中小企業は雪崩式につぶれていく可能性もある。理路整然とした案が必ず期待通りの結果を生むわけではないのだ。悪夢の再現は避けたい。