厳しさ増す財政の支えに交付金が活用でき、国のエネルギー政策にも一石を投じられると町長が高レベル放射性廃棄物最終処分場の文献調査受け入れを表明した途端、すさまじい逆風にさらされた
▼どこからか反対の火の手が上がり、すぐに町外の人も多数参加する反対運動が組織される。主要なマスコミは大きく紙面を割いて町長の姿勢に疑問を投げ掛け、知事は「札束で頬を張るようなやり方だ」と国を非難する。この一連の流れをつい最近見た。寿都町の話だろう、と思った方も多いのでないか。実は2007年、現行の最終処分場選定制度になって初めて文献調査に手を挙げた高知県東洋町のことである。田嶋裕起元町長が著書『誰も知らなかった小さな町の「原子力戦争」』(ワック)に詳しく記していた
▼田嶋氏は反対の意見が出るのは当然とする。ただ、その意見の多くが誤解や偏見、党派性に基づいていたのには頭を抱えたという。9日、正式応募した寿都町も同じ流れに飲み込まれているようだ。事実奇妙な主張は多い。例えば〝ガラス固化体前では人が20秒で死亡する〟は〝宇宙服なしで宇宙空間に出ると即死する〟と言うのと同じ。現実には起こらない事態で危険を際立たせているだけ。将来構想を見ずに交付金だけ取り上げるのもフェアではあるまい。一度応募すると止められないとの説も手続きを見れば誤解だと分かる
▼処分場の議論は避けて通れない。一石を投じた片岡町長の判断は評価されこそすれ、非難されるものではなかろう。まともな議論の輪が全国に広がるといいのだが。