風評被害を作るのは

2020年10月20日 09時00分

 作家太宰治に「容貌」という小編がある。顔の大きな男があらぬ誤解を受ける話だが、全くの見当違いのため本人は深く傷つく。この男は見た目で傲慢(ごうまん)と思われがちなのだった

 ▼男はぼやく。「大きいつらをしやがつて、いつたい、なんだと思つているんだ等と、不慮の攻撃を受ける事もある」。店で飲んでいて女の子に〝偉そう〟〝芸術家気取り〟〝夢は捨てる事だ〟と罵倒されることもあったという。中身をよく吟味しないまま思い込みや漠然とした印象にとらわれて結論に飛びつく人は案外多い。東京電力福島第1原子力発電所で、貯蔵がほぼ限界に達している処理水の海洋放出についてもやはり同じ。〝危険で怖い放射性物質を含むのだから環境への影響は大きいはず〟と思い込んでいる人が少なくないようだ

 ▼国が先週、地元自治体を訪れ海洋放出を前提とする説明をしたとの情報が流れると、一部のマスコミがすぐに懸念を表明。一般の人だけでなく、識者の間からも反対の声が挙がった。しょうゆもボトル1本一気に飲めば死亡するが、適度に使う分には健康を害さない。有害な核種が取り除かれた処理水も、トリチウムを含むとはいえ海水で薄まるとほぼ検出できなくなる。放出時点でさえ放射性は世界中の原発が捨てている排水と比べ特別高くない

 ▼一般の人が不安を抱くのは仕方のない部分もある。ただ専門知識を持つマスコミや識者が延々と危険をあおるのはいただけない。これでは率先して〝あいつは顔が大きいから傲慢に違いない〟と風評被害を作っているようなものだ。


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