明治時代にはまだ、全国の人が同じ言葉を使い不自由なく話を通じさせられる標準語がなかった。そうした近代日本語の成立に中心的役割を果たしたのが国語学者上田万年である
▼その挑戦を描いた『日本語を作った男 上田万年とその時代』(山口謡司、集英社)を読んでいて、こんな一節に目が止まった。「言語は、自然にできるものではなく、人間の集団的歴史、あるいは精神的所産であると考えるのである」。流行語というものもやはり人間の精神的所産なのだろう。先週発表になったことしのユーキャン「新語・流行語大賞」ノミネート30語を見てそれを感じさせられた。定義を広くとらえると、ほとんどが新型コロナウイルス関連なのである
▼「クラスター」や「3密」、「PCR検査」といった直接的つながりを持つ言葉から、「ニューノーマル」、「ソーシャルディスタンス」、「オンライン〇〇」といった新たに作られた言葉まで。一つの事象にこれだけ多くの言葉がひも付けられるのは珍しい。ゲームソフト「あつ森(あつまれどうぶつの森)」や「テレワーク」も家で過ごす時間が増えたために広まったものだし、「自粛警察」もコロナ対策の不備を過剰に叩く風潮から生まれた
▼ことしの世相を語るには十分な数で、もうこれ以上の新語はいらないというのが正直なところである。ところが寒冷期に入り、本道の新型コロナ感染はうなぎ上り。きのうも新規感染者が160人を超えた。いつまで続くのか。来年は「ワクチン奏功」や「終息」などの言葉で大賞を埋め尽くしたいものだが。