新型コロナウイルス感染拡大初期の象徴的出来事といえば、巨大クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染だろう。まだウイルスの正体も対応策もはっきりとは分かっていなかったため、現場は混乱し、関係者も右往左往していた
▼時は過ぎ、今は第3波が日本を襲う。その象徴的出来事がまさか本道で起こるとは。国内最大のクラスターになってしまった旭川厚生病院である。医療崩壊の寸前だという。急速に事態が悪化し、通常の方法ではもはや収拾がつかなくなっていたダイヤモンド・プリンセス号を救うのに大きな役割を果たしたのが自衛隊だった。危機的状況に陥ったときにはやはり頼りになる。今回も旭川市への派遣が決まった。基幹病院の相次ぐクラスター化で逼迫(ひっぱく)する市内医療体制の後方支援に回る
▼陸上自衛隊の看護官ら10人がきのう、担当現場に到着した。2チームに分かれて市内の病院や重症心身障害者施設で医師の診療補助や入院患者の体調管理に当たるそうだ。吉田茂元首相が1957年、防衛大学校一期生に伝えたこんな話を思い出す。「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり、歓迎されたりすることなく自衛隊を終わるかもしれない」。なぜなら「歓迎されチヤホヤされる」のは国民が困っているときだけだから
▼国民と自衛隊の間にかなり距離のある様子がうかがえる。時代も社会も変わった。われわれは今、自然災害やウイルスとの絶え間ない戦いの中にいる。人々の命を守るため常に最前線に立つ彼らにはいくら感謝しても足りない。