戦後、個人の自由と権利の意識が高まるにつれ、結婚は見合いが減り恋愛が増えていった。見合いなど時代遅れというわけだ
▼小説家の坂口安吾が随筆でそんな風潮を皮肉っていた。「恋愛結婚を進歩的だといって見合い結婚をバカにするが、恋愛などタカの知れたものだということがいずれ看破せられると、人まかせの見合い結婚、ここにはかけのスリルがあって、百年先の文化人のオモチャになるかも知れない」。この安吾の予言が100年もたたずして現実になりそうだ。ただし「文化人のオモチャ」でなく政府の大真面目な施策として。いわゆる〝AI(人工知能)婚活〟である。来年度からの支援を決めた。「人まかせの見合い結婚」の「人」の部分が「AI」に置き換わるのだ
▼どんなシステムか。趣味や考え方、行動履歴などを集めたビッグデータを使い、理想的なマッチング例を集積。利用者に最適の相性となる可能性の高い人を見つけてあげるのである。スリルはあるが賭けよりはよっぽどいい。実際、安吾も指摘している通り、恋愛だからといって必ず幸せな結婚生活が続くわけではない。むしろ見合いの方が離婚率が低いという話もあるくらいである。恋愛結婚だとお互い「釣った魚にエサはやらない」となるのかもしれぬ
▼先行してAI婚活を始めている自治体の中には成功率が顕著に上がっている例もあると聞く。データの精度もさることながら、今どきの人は、やり手のおばちゃんよりAIの方が信用できるのかもしれない。どうやら見合いが進歩的とされる時代が来たようである。