国は非加熱製剤の危険性を十分認識していたのに、それを放置したため多くの人の命が失われた。30年ほど前の薬害エイズ事件である。見過ごせない問題があると分かっているのに何も手を打たず、重大な失敗を招く例は昔から後を絶たない
▼畑村洋太郎東大名誉教授が著書『決定版 失敗学の法則』(文春文庫)で、そんな「不作為の失敗」は「挑戦した上での失敗」よりたちが悪い「犯罪的失敗」だと断じていた。国はまたその過ちを繰り返そうとしているのか。そう思わずにはいられないのが最近の電力需給である。連日、綱渡りが続く。きのうのピーク時予想電力使用率は沖縄を除く全国9エリアで95%以上だった。90%を超えると需給は逼迫(ひっぱく)していく
▼実は年明けからこの状況が続いていた。直接の原因は昨年末からの長引く寒波と火力発電燃料の液化天然ガス(LNG)不足だが、国の不作為によるところも大きい。解決すべき重要問題に手を付けないまま電力政策を進めてきたのである。筆頭は原子力発電だろう。東日本大震災から10年もたつのに現在稼働しているのは33基のうち3基のみ。安全対策に名を借りた国の怠慢というほかない。脱原発を掲げるのはいいが、安定供給できない道筋は間違っている
▼出力を調整できない再生エネルギーへの過剰な期待や電力自由化の野放図な拡大も混乱に拍車をかけていよう。今回も雪で太陽光が使えず火力にしわ寄せが行った。2018年のつらい全道ブラックアウトが頭をよぎる。不作為の失敗は犯罪的。国はそれを肝に銘じてほしい。