日本が主導して建設した太平洋横断海底トンネルは、米国のシアトルと東京、中国の上海を結ぶ。といっても現実の話でなく、中国人SF作家ケン・リュウが描いた架空の建設小史である。短編集『紙の動物園』(早川書房)に収められていた
▼世界恐慌から立ち直るため1929年に着工し、10年かけて完成。圧縮空気で輸送カプセルを動かすシステムで、全世界のコンテナ輸送の30%以上を担っているとの設定だ。当時、米国―日本間は船旅で片道2週間程度かかっていたが、このトンネルの開通でわずか2日に短縮された。移動が楽になったため観光需要も増大し、経済効果は全体として膨大な規模に。夢物語とはいえ一つの思考実験として興味深く読んだ
▼本紙12日付1面「津軽海峡トンネルを構想」の記事を見て、その作品を思い出した。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が公表した計画だという。函館―青森間が車で2時間半。経済効果は年間で878億円とこちらもなかなかのものである。現在の青函トンネルを新幹線専用とし、新たに片側1車線の自動車道と貨物輸送の単線鉄道で二層化したトンネルを造る。自動車道が自動運転車専用というのも心憎い。それなら安全かつ安心だろう
▼JAPICはこの構想を青森や北海道のためでなく、日本のためのプロジェクトと位置付けているそうだ。気候変動が進むと、食料基地としての本道の役割はますます重要性を増す。大規模自然災害発生時を想定すると、安定した物流経路の確保はぜひとも必要である。夢物語で終わらせたくない。