ジャーナリストのボブ・グリーン氏が退任6年後のリチャード・ニクソン元米大統領に会いに行った経験をコラムに記している。ニクソンといえばウオーターゲート事件で悪名が高い人物。対立関係にある民主党本部への盗聴を主導したとされ、この一大政治スキャンダルで最後には辞職に追い込まれた
▼グリーンは書いている。「私たちは、ニクソンが嫌いだという感情をむきだしにしてはばからなかった世代だ」。それならなぜわざわざ会おうと考えたのか。しばらくして気付いたらしい。「彼はわれわれの時代のひとりの、想像以上に大きな政治家であったことがいまや否定しがたい事実となろうとしている」。おとといホワイトハウスを去ったドナルド・トランプ氏も、そんな存在になるのかもしれない
▼何せ破天荒な大統領だった。不動産王、テレビスター、女性スキャンダルといった過去はもちろん、自国第一主義への過剰な執着や気に入らない相手をSNSで罵倒するやり方には皆、度肝を抜かれた。結果的に国内の分断を進め、国際協調路線に度々反旗を翻して混乱を招いたのは事実だろう。ただ、日本との関係は総じて良かっただけに、あのトランプ節がもう聞けなくなると思うと少し寂しい気もする
▼それはジョー・バイデン新大統領がどんな人なのか、何がしたいのか一向に伝わってこないせいでもあろう。歴代大統領の中でも就任時にこれだけ人物像が見えない人も珍しい。かつてのニクソンのようにトランプも米国社会の実相を体現していた。それがいいことかどうかは分からないが。