目の中に入れても痛くないほどかわいい息子だが、甘やかして育てて駄目な人間にしてはいけないと泣く泣く奉公に出す。親子の情を描いた名作落語「薮入り」である
▼熊さんの息子金坊は8歳だが、とにかくずる賢い。このままではろくな大人にならないと大家が熊さんを説得。奉公の手はずを整えた。親元を離れて3年、金坊はやっと実家に帰る許しをもらう。熊さんはうれしくて前の日から少々取り乱し気味だ。奥さんに食べきれない量の食事を用意しろと言ったり、1日では回りきれないお出掛けの行程を考えてみたり。ところがいざ立派に成長した金坊を目にすると涙で何も見えず、言葉も出てこない。東北の、そして本道のファンも今それと同じ気持ちになっているのでないか
▼駒大苫小牧高出身で元東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手が日本球界に帰ってくる。米大リーグのヤンキースからフリーエージェント(FA)になり、楽天への再入団を決めたという。8年ぶりの古巣復帰である。現在、米球団はコロナ禍でどこも火の車。FAになったものの、残留も移籍もすんなりいかない事情もあったようだ。ただ、東日本大震災から10年。楽天時代に自身が経験し、苦しい時を地域と共に乗り越えてきた田中には、このタイミングでの復帰に特別な思いもあったらしい。その心意気や良し、である
▼甲子園で活躍していたころから注目していたファンからすると、ますます成長した「マー君」の姿に感心するやら驚くやら。ことしは本道に来る機会もあろう。熊さんの心境が少し分かる。