どこまでも深く長く潜航できる仮想の潜水艇に乗り、深海伝いに世界を一周したとするとどんな光景に出会えるのか。海洋地質学者の藤岡換太郎氏は、著書『見えない絶景 深海巨大地形』(講談社)でそれを詳細に描いてみせた。氏は本物の潜水調査船「しんかい6500」に乗り、現実に50回を超える調査に参加している
▼中でも日本列島の東側に横たわる、南北約800㎞の日本海溝を紹介する部分が興味深い。海溝には大きな海底谷が付きものだが、日本海溝にはそれが見られないというのである。斜面崩壊によって発生した土石流が谷を埋め尽くしているのだそうだ。つまりここでは地震が常態化しているのである
▼13日午後11時過ぎに起こった福島県沖を震源とする地震も例外ではない。太平洋プレートと陸側のプレートが常にせめぎ合いを続けているうえ、10年前の東日本大震災で増したひずみが一触即発の状態を招いている。対立するギャング同士が常に口火を切る機会を狙っているようなものだ。福島県と宮城県で最大震度6強と聞いて寒気がした。多くの人が、東北沿岸部を飲み込んだ10年前のあの津波の記憶をよみがえらせたに違いない。現地の方々の恐怖はどれほどだったか
▼政府の地震調査委員会はきのう、「偶然に幸いしてそれほど大きな津波が出なかった」と条件が少し違えば大きな津波になっていた事実を明らかにした。死者こそ出なかったものの今回も経済的被害は甚大だ。残念ながらそれが地震の巣の日本海溝と隣り合って暮らす国の現実だろう。しばらくは気が抜けない。