日本のリズムアンドブルース界を引っ張る女性歌手、ミーシャさんの名バラードに「Everything」(MISIA作詞、松本俊明作曲)がある。お気に入りの一曲という人もいるのでないか
▼歌は奇跡のような出会いが実現した喜びを真っ直ぐ表現する。ただ、それは道ならぬ恋だったようだ。「あなたが想うより強く やさしい嘘ならいらない 欲しいのはあなた」。そんな歌詞が複雑な関係をほのめかす。会えない本当の理由を告げると女性が傷付くと考え、男性は「やさしい嘘」をついたのだろう。女性がその場しのぎの言葉に気付かないわけもなかった。口にはしないものの、胸の内でだけは愛する人に呼び掛けるのだ
▼歌ではいらないとされたうそだが、最近、それが必要な場合もあることを教えられた。茨城県の小学1年生、佐藤亘紀君の作文「おとうさんにもらったやさしいうそ」にである。先日発表された第12回「日本語大賞」(日本語検定委員会)で最優秀の文部科学大臣賞に選ばれた。亘紀君はある日、おとうさんからこんな言葉をもらう。「おとうさんはちょっととおいところでしごとをすることになったから、おかあさんとげんきにすごしてね」。実はこの1週間後、お父さんは白血病で亡くなっていた
▼その事実を知ったのはしばらくたってから。亘紀君は書いている。「おとうさんがやさしいうそをついてくれたおかげで、ぼくのこころはつよくなれています」「やさしいうそをありがとう」。亘紀君だって本当にほしいのはおとうさんだろうに。亘紀君はやさしく、強い。