毎年今頃の時期になると、9世紀中国の詩人于武陵の漢詩「勧酒」を思い出す。五言絶句の形式でつづられた一編だが、小説家井伏鱒二の意訳文をご存じの人の方が多いのでないか。こんな内容だった
▼「コノサカズキヲ受ケテクレ ドウゾナミナミツガシテオクレ ハナニアラシノタトヘモアルゾ 『サヨナラ』ダケガ人生ダ」。特に最後の一文が印象深い。元の言葉は「人生足別離」。人生に別れはつきもの―だ。3月に入り、いつもなら送別会が盛んに開かれるころである。残念なことにこのコロナ禍では大勢が一堂に会しての飲食は御法度。同じ鍋をつつきながら酒を酌み交わし、大いに語り合うこともできない。単なる慣行と思っていた送別の儀も、いざなくなってみると案外気持ちの収まりが悪いものである
▼全道の目安となっていた札幌市内の飲食店を対象とする道の営業時間短縮要請も先月末解除され、午後10時以降も営業できるようになったが、こんな状況では客足がすぐに戻ることはあるまい。とはいえ感染者数はずいぶんと減っている。きのうは本道で29人、動向が注目される東京も232人にとどまった。病床使用率も1日現在でそれぞれ14.8%、37.2%とかなり余裕が出ている
▼ワクチン接種も間近とはいえないまでも道筋は見えてきた。コロナと付き合う態勢はできつつある。感染対策のため変えねばならない日常も中にはあろう。何事にも別れはつきものだ。ただ仲間を盛り立て新天地に送り出す慣行にはサヨナラしたくない。来年の今頃は開けるようになっているといいが。