社会派ドラマから喜劇までどんな役柄も自在に演じる名優、竹中直人さんには「笑いながら怒る人」という一風変わった得意技がある。ご覧になったことのある人も多いのでないか
▼竹中さんが首を左右に振ってにこにこ笑いながら、口では「何だバカヤロー、ふざけんじゃねえぞコノヤロー!」と怒りをぶちまけるのである。タイトルそのままの演技なのだがこれが実に面白い。初めて見たときは腹を抱えて笑った。目からの情報と耳からの情報が合致しないため、脳が処理に悩むのだろう。その違和感が笑いを生む。ただしこれも遊びで作られた人物だから楽しいわけで、現実にいたらかなり気味が悪い
▼最近の中国はちょうどそんな人のようだ。世界平和や国際協調は大切、自由貿易は尊重すべきとにこにこ笑いながら、ウイグルやチベット自治区では民族弾圧、東シナ海では領土拡張と軍事化、幾つかの発展途上国では資源収奪と経済支配を進めているのである。「笑いながら暴れる国」とでもいうべきか。ことしは中国共産党の建党100周年の節目。習近平総書記は強国路線を貫く構えと聞く。事実、開会中の全国人民代表大会でも共産党賛辞の声があふれているという。異論は許されない空気らしい
▼少し前には日中友好と言いながら、尖閣諸島をうろつく海警局の船舶に武器使用を認める決定もした。この態度と言動のちぐはぐさはやはり異様だ。付き合いを見直す国が増えるのもうなずける。何せ中国が笑顔で近づいてきても、こちらには「何だバカヤロー」の声が筒抜け。笑えるはずもない。