寒さが厳しくなると途端に体のあちこちが痛み始める。そんな人も多いのでないか。急に病気にかかるわけではなく、年齢とともに悪化してきた部分が寒さを引き金に症状として現れるのである
▼社会も同じらしい。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏がコロナ禍に関してこんな意見を表明していた。「時間をかけて医療システムが損なわれたことを今回のウイルスが露呈させたと考えるべきでしょう」。世界がここまで追い込まれたのはコロナのせいばかりではない。市場原理最優先の新自由主義経済に傾斜するあまり、生活を支える医療システムや高齢者介護に割くべき人とお金を削り続けた。その当然の帰結だというのである。最新インタビューをまとめた『パンデミック以後』(朝日新書)に教えられた
▼日本の状況もやはり同じだ。民間病院が多いためコロナ対応病床を臨機応変に増やすことができず、資金不足と職員の低賃金が常態化している高齢者施設では感染防止対策もままならない。きのうで首都圏1都3県に出されていた緊急事態宣言が解除された。1月からおよそ2カ月半。首都圏の宣言とはいえ全国への影響も決して小さくなかった。特に客商売の人には朗報に違いない
▼感染対策は継続したまま、しばらく様子を見るのだろう。ただ、目立つのは対症療法ばかり。トッド氏が指摘する国の弱い部分を根本から治療する姿勢はほとんど見られない。これではいつまでも同じ事態の繰り返しでないか。寒くなっても痛みは出ない。国こそそんな健康な体づくりに心を砕かねば。