厚岸町床潭の山林で山菜採りをしていた釧路市の60代男性が10日、ヒグマと遭遇して死亡した。ニュースを聞き、恐怖感を呼び起こされた人も多いのでないか。これから山菜採りが本格化する季節である。人ごとではない
▼男性は妻と山林に入っていた。妻が男性の叫びを聞いて駆け付けると、もみ合いになっていたという。妻は助けを呼びに行ったが、戻ったときには既に頭部などをかまれて亡くなっていたそうだ。報道によると母グマが子グマを守るため襲った可能性があるという。現場から少し離れた所に冬眠用の穴があり、そばに子グマの死骸があったらしい。見通しが悪い沢だったのも災いした。不運が幾つも重なった結果の事故だろう
▼元来、ヒグマは凶暴な動物ではない。『図解 なんかへんな生きもの』(ぬまがさワタリ絵・文、光文社)にも、「ヒグマは決して血に飢えた殺人モンスターではなく、むしろ(大抵は)穏やかで慎重な性格をした野生動物だ」とある。静かに暮らしたいだけなのだ。実際、ヒグマによる死亡例はそれほど多くない。昨年の道内交通事故死者数が144人なのに対し、ヒグマ事故の死者数は0人。1989年からことし1月までの31年間でも15件しかない。多いように思うのは恐怖心ゆえだ
▼とはいえ山に入るときに警戒を怠っていいわけではない。事前に出没情報を集め単独行動はしない。常に周囲に気を配り音で人の存在を知らせる。そんな基本ルールもしっかり守りたい。ヒグマの庭にお邪魔するのである。礼儀をつくして無用なトラブルは避けたいものだ。