子どものころによく見ていた米コメディーアニメ『トムとジェリー』(MGM)に時折こんな場面があった。猫のトムが何か選択を迫られたとき、右耳の横に天使が現れ紳士的に振る舞うよう説き、左耳の横には悪魔が現れて自らの欲望に忠実になるようそそのかすのである
▼例えばネズミのジェリーを捕まえたとき、天使は「武士の情けだ。逃がしてやりな」、悪魔は「うまいぞ。すぐに食っちまえ」といった具合。経営の混乱が続く大手電機メーカー「東芝」の耳の横にも、そんな天使と悪魔が現れているようだ。英投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」が1株5000円程度で全株式を取得すると提案したのに対し、香港ファンド「オアシス・マネジメント」がそれは低すぎるとして「1株6200円以上が妥当」との意見を出したのである
▼丸ごと面倒を見るからと低めの株価で買収を持ち掛けるCVCと、いやいや東芝の価値はそんなものじゃないと安値に異を唱えるオアシスという構図か。ただ、高い方が天使といえないのがこの手の話の難しいところ。ファンドは利益を最大化するためさまざまな仕掛けを施す。企業の価値や永続性にはこだわらないファンドも多いのだ。選択を間違えると、うまい所だけ食べられて終わりとなりかねない
▼重要な岐路に立たされた東芝だが、14日、車谷暢昭社長が突然辞任した。「トムとジェリー」並みのドタバタぶりである。ここにきて他の米、カナダ系ファンドが買収に乗り出しているとも聞く。どうやら「仲良くけんか」とはいかないようだ。