どこに住み何をして暮らしを立てるか。ほとんどの人が一度は向き合わねばならない問いだろう。巡り合わせによっては、何度かやり直す人もいるかもしれない。それは自分が生きる上で一番大切なものを見つけ出す作業でもある
▼最近、そんな人生の一大事について、あらためて考えさせられた本があった。学生たちが道内の過疎地に住む人々にインタビューし、生の声を集めた『いなかのほんね』(中西出版)だ。「不便なところになぜ住むの?」。そんな〝ド直球〟の質問をぶつけられたのは岩見沢市美流渡、毛陽、万字地域に住む10組の方々だった。まとめたのは道教育大の学生26人と美流渡在住の編集者來嶋路子さんである
▼「いなか」に暮らすわけも職業もそれぞれだが、共通するのはそこが気に入っていること。横浜から移住し花のアトリエを主宰する大和田誠、由紀子夫妻は旅から戻ったとき感動したという。「こんな静かでよいところに住んでたんだって。帰ってこれたのは幸せだったなあと」。88歳の元左官職人細川孝之さんが美流渡へ越してきたのは、まだ炭鉱華やかなりし80年以上前。市街地での仕事も増えたが、「だんだん離れがたくなっていったんだよね。住めば都だよ」
▼札幌から移り住んだ上美流渡のパン屋女将中川文江さんの言葉も胸に染みた。「地方ってダイヤモンドの原石。いろんな人が集まってくると可能性が広がる。そして化学変化していくでしょ」。新型コロナに生き方、働き方の見直しを迫られている今だからこそ、「いなかのほんね」にじっくり耳を傾けたい。