近年、「コミュ力」なる言葉を聞く機会が増えた。説明するまでもないと思うが、コミュニケーション能力を略したものである。他人と自在に意思を通じ合わせる技術や才能のことをいう。学校や職場で本当に役立つのは学力よりコミュ力と考える人も多いようだ
▼たまにこのコミュ力の権化のごとき人がいる。その日初めて参加した集まりなのにすぐ場になじみ、旧知の間柄のように皆と会話を弾ませていたりして。一つ間違えると無礼に陥る危険はあるものの、人と人との間の垣根が低いと話が早い。高いコミュ力が求められるゆえんだろう。安倍前首相はこの力に優れ、外交で遺憾なく発揮していた印象がある。さて、菅首相はどうだったか
▼菅首相とバイデン米大統領が16日、ホワイトハウスで対面による初の首脳会談を実施。会談後の共同記者会見で、バイデン氏が自然に「ヨシ」と呼び掛けたのに対し、菅氏は「ジョー」と言うまでに一瞬の間があった。そう簡単に垣根をなくせる性格ではないようだ。どうやら安倍氏ほどコミュ力は高くないらしい。国内での舵取りを見ていても、これぞと思う政策は有無を言わさず断行するが、国民への説明はいつも言葉足らず。仕事はできるのに、それが評価に結び付かないタイプである
▼今回もバイデン氏が初めて会談する外国首脳となり、共同声明には中国をけん制する「台湾海峡」の文言が盛り込まれた。大きな成果なのに国内で首相の株が上がった様子はない。外交のためにも国民の信を得るためにも、もう少しコミュ力を高めた方がいいのでないか。