米ハリウッド映画の中でもギャング、マフィア映画は独特の存在感を放っている。人気は高く、名作も多い。最も有名なのはフランシス・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)だろうか。タイトルが作品を離れ、いまだ一人歩きしているくらいである
▼マフィア映画で描かれるのはファミリーの盛衰や血で血を洗う勢力争い、警察組織との激突といった物語。背景にあるのは麻薬取り締まりと禁酒法だ。禁酒法時代のシカゴが舞台のブライアン・デ・パルマ監督『アンタッチャブル』(87年)も面白かった。アル・カポネと捜査官の手に汗を握る攻防が記憶に残る。それはそれとして、この種の映画を見ていつも思うのは、人は禁止されると闇でも何でも酒を飲もうとする事実だ
▼まさか現代の日本でそれと似た現象が起こるとは思わなかった。新型コロナのまん延防止措置や緊急事態宣言で飲食店の営業自粛、酒類提供の停止が実施された結果、東京や大阪では路上で酒を飲む人が増えたのだとか。仕事終わりで同僚や友だちと一杯やりたくても酒を飲める店はどこにもない。勢い「じゃあここで」と路上に腰を据える流れとなる。酒好きの一人としては気持ちが分からないでもないが、感染拡大防止の観点からも街の安全の面からも褒められた行為ではない
▼ただ禁酒法に無理があったように、宣言発令の効果に確かな裏付けがないことも人々が羽目を外す一因となっていよう。コロナとの付き合いはまだ続く。問答無用の締め付けが続けば闇酒場ならぬ路上酒場に人があふれるだけでないか。