江戸時代後期の経世家、二宮尊徳が自ら実務思想を語った『二宮翁夜話』(PHP研究所)に、風俗の悪い村を仁義の村に改心させる方法を説いた一節がある
▼二宮翁はまず悪い村は「貧しさを恥としない」と喝破。その上で、恥がないと「租税を納めないことも、借財を返さないことも、労役を怠ることも、質に入れることも、暴言を吐くことも恥じない」。そうして法は破られ、悪行が横行していくのだと教えた。これを変えるには筋道を逆にしなさいと翁は諭す。村が豊かになり、貧しさは恥だとの心が生じれば自然と正義心も生まれ、法も道義も守られるようになるというのだ。今、いじめ問題で揺れる旭川市の中学校と市教委も「貧しさを恥としない」過ちに陥っていたのでないか
▼市内の公園でことし3月、中学2年の女子生徒が凍死していた事件で、女子生徒が集団によるいじめに苦しんでいたのに学校と市教委は訴えに耳を貸さず、事を荒立てずに流そうとしていた事実が明らかになったのである。事件を伝えた「週刊文春」によると女子生徒はおととし、裸の画像をSNSで拡散されたり、川に飛び込むまで追い込まれたりしていた。もはやいじめでなく犯罪だ
▼母親の訴えに学校は、「いじめはない」の一点張り。市教委も動かなかった。報道を受け、市教委はようやく「重大事態」に認定。5月から調査に乗り出すという。学校と市教委は女子生徒を救わなかったばかりか、「心の貧しさを恥としない」振る舞いを黙認したことで加害生徒が改心する貴重な機会も奪った。幾重にも罪深い。