先週、STVテレビで映画『タイタニック』(1997年、ジェームズ・キャメロン監督)が放送されているのを眺めていて、12年に沈没した客船タイタニックにまつわる実話を思い出した
▼ご存じの人も多かろう。船にはもともと乗客乗員を全て収容できる救命ボートが用意されていなかったのである。3500人の定員にボートが1000人分。当日の乗船者は2200人だったものの、それでもまるで足りない。オーナー企業がコストを削ろうとしたためとも、絶対に沈まない自信があったためともいわれる。平時に慣れすぎ、最悪の事態を想定しなくなっていたのだろう。乗客にとってはたまったものではない。本来は失わずに済んだ命だ
▼コロナ患者の病床不足に劇的な改善が見られないうちに、今度は切り札ともいえるワクチン接種で深刻な打ち手不足の問題が持ち上がっている。政府は1日100万回接種の目標を掲げるが実現は難しい。救命ボートはあっても、乗り移るはしごが全然足りないのだ。沈没同様、接種も時間との戦い。ところが日本では医師と看護師にしか資格がないため、ワクチンの数が十分でも接種は迅速に進まない。米国は薬剤師が資格を持ち、英国は一般のボランティアが接種できる制度をつくったと聞く。やっと歯科医に協力を求めた日本とは違う
▼政治家と医療界が既得権にこだわり、地位に安住するあまり最悪の事態への備えを忘れていたのでは、と考えるのはうがち過ぎか。コロナは海上の絶望的事故ではない。打ち手を増やし一人でも多くの人を救いたいものだ。