奄美の歌姫と呼ばれる城南海(きずきみなみ)さんが作詞作曲した歌に『祈りうた~トウトガナシ~』がある。奄美民謡特有のこぶし〝グイン〟に乗せて伝えられる島への思いが胸を打つ一曲だ
▼こんな一節があった。「くぬ島に生りてぃ くぬ島想てぃ生きゆん うやふじうかげ 忘れぃやならぬ 何時ぬ日も くぬ胸に」。この島を思いながら生きていく。今があるのは先祖のおかげ。忘れてはいけない、と歌う。10日の発表を聞いて喜んでいる地元の皆さんもきっとそんな心境でないか。政府が世界自然遺産として推薦していた「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」(鹿児島県、沖縄県)について、ユネスコの諮問機関が登録を勧告した。7月の世界遺産委員会で正式決定される運びという
▼自然と共存しながら暮らしを営んできた先祖の方々と、それをそのまま後世に残そうと取り組んできた現世代の関係者との時代を超えた共同作業の成果だろう。登録されると国内では10年ぶり、5件目になる。対象面積は4万2698ha。温暖多湿な亜熱帯気候の下で常緑広葉樹多雨林が広がる。野性味あふれるのに愛らしいイリオモテヤマネコやアマミノクロウサギは誰もが知っていよう。島で独自進化を遂げたそうした固有種の多いことをユネスコは生物多様性を守る上で国際的に重要と評価した
▼先の歌は続く。「今日ぬ誇らしゃ 何時よりも勝り 何時も今日ぬ如に あらち給れ」。いつもきょうのような素晴らしい日でありますように、というのである。世界遺産登録でその願いがかなうといい。