兵法武経七書の一つとして日本でも古くから読まれている中国の『李衛公問対』には、勝利を目指す上では攻めも守りも一体との教えがあるという
▼守屋洋氏が『《中国古典》役に立つ兵法120』(三笠書房)で三国時代の逸話を引きながら解説していた。長く厳しい戦いに疲れていた曹操に、参謀が「堅陣を布いて守りを固め、敵の喉首にくらいついて、すでに半年にわたって前進をはばんで来ました」と現状を説明。その上でこう進言したそうだ。「敵の攻勢は今が限度。やがて膠着状態の破れるときが必ずまいります。そのときこそ奇計をもって、一気に決着をつけるのです」。日本での新型コロナウイルスとの戦いも、いよいよ雌雄を決するときが近づいているようだ
▼この1年余り、国民の自由と一部の経済活動を大きく犠牲にしてウイルスの前進を阻んできた。そんな我慢続きの日々も終わる。ようやくウイルス絶対有利の形勢を逆転させる機会が訪れたのだ。一気に決着をつける奇計はワクチンである。1日当たりの接種回数は、26日を見ると高齢者28万回、医療従事者14万回の合計42万回。予約手続き、打ち手、会場確保といった態勢が整わない中での実績としては悪くない。これなら政府目標の1日100万回も実現できるのでないか
▼欧米の例から高齢者の接種が済むと感染拡大も抑えられることが分かっている。今は7月末の全高齢者2回接種を目指し一気に突き進むしかない。今月末が期限だった緊急事態宣言も対象地域全てで延長される見込みだ。攻めのために固める最後の守りだろう。