鋭い風刺にも定評のあるSF作家小松左京がオリンピックを題材にした「超人の秘密」という短編を残している。隆盛を極め出場国が増え続ける大会に、ある年、選手が一人だけの国が初参加した話だ
▼常連国は「素晴らしい意気込み」と称賛したが、大会が始まるとその選手が陸上や水泳など個人競技の世界記録を全て塗り替えてしまう。他の国は不思議でならない。ついには魔法だろうとの結論に達したのだった。規定には〝魔法は禁止する〟との文言はない。裏技を使われたと考えたわけだ。各国は自分だけ後れを取るわけにはいかないと、一斉に研究を始めた。小松左京はメダル獲得のためには手段を選ばない国が多いのを皮肉っているのである
▼現実にドーピングは珍しくない上、巧妙さは増すばかり。パラリンピックでも、知的障害者バスケットボールでほとんど健常者のチームを編成したスペインや、視力障害者柔道に視力を偽って選手を出場させた韓国の例があった。不正を働く国は後を絶たない。これも首をかしげたくなる動きである。国際重量挙げ連盟が11日、性転換手術で男子から女子になったニュージーランドの選手が東京五輪女子87㌔超級の出場権を獲得したと発表した。こうした選手の五輪出場は初めてという
▼体格がものをいう超級でこの扱いは不公平でないか。トランスジェンダーの権利ばかりを尊重し、明確な体力差に目をつぶるのは五輪の目指すフェアプレー精神にも反していよう。しかも栄誉と実績を求める国や選手がこの「合法的な魔法」を使わないとも限らないのだ。