ノンフィクション作家の髙橋秀実さんは、受け身がとてもうまいそうだ。高校、大学はもちろん、勤めていた会社でも柔道部に所属していたという。エッセーに記していた。受け身こそが柔道の本質、との考えの持ち主なのだとか
▼ところが昨今のルールは「自分からいかないと『消極的』だと判断されて『指導』を取られてしまう。やむなく積極的なふりをさせられているだけでこれは本来の柔道ではない」と嘆く。しかも近頃は柔道に限らず仕事でも生活でも「受け身ではダメ」と言う人が増え、閉口しているらしい。おととい内閣不信任決議案を提出した立憲民主党など野党4党も、わが意を得たりとうなずくのでないか。もし提出を見送っていたら支持者に消極的と判断され、批判は免れなかったろう
▼受け身と思われないよう積極的なふりをするしかなかったわけだ。とはいえ国会会期末直前まで提出を迷う弱気な態度は隠しようもない。本当に解散となれば困るのは自分たちだから恐れるのも当たり前。自民党の二階幹事長は当初から解散総選挙で受けて立つと繰り返していた。風向きが変わったのは菅首相がG7で一定の成果を上げて帰国してから。世論調査の支持率は下げ止まり、コロナ感染も減少に転じて解散機運は急激にしぼんだ
▼解散なしと踏んだ野党は安心して決議案を提出したのである。巧妙に野党の見せ場を演出した自民党も相当にたちが悪い。本末転倒、国民無視の政局芝居だろう。野党も少しは受け身を覚えた方がいい。攻めを意識するあまりいつも足元がお留守になっている。