どこから来たかは諸説あって判然としないものの、日本には古くから「天邪鬼」(あまのじゃく)と呼ばれる意地の悪い妖怪がいると伝えられる。寺の門前などでにらみを利かす仁王や毘沙門天の像に踏みつけられている小さな鬼がそれだ
▼『日本妖怪大辞典』(画・水木しげる、角川文庫)を見てみると、「人の意に逆らい、他人の心中を察する能力に優れ、口真似や物真似をして人をからかう」のが特徴だという。新型コロナウイルスのワクチン接種加速とともに目立ってきたワクチン反対論者たちも、この天邪鬼に魅入られているのでないか。仕組みを理解し、正しくリスク評価した上で注意を喚起するならまだ分かる。違うのだ
▼例えば、ワクチンが細胞核を破ってDNAに触れ遺伝子を組み換えてしまうだの、マイクロチップが入っていて無線の5G経由で行動を把握されるだの、荒唐無稽な主張ばかり。接種後2年たったマウスが全部死んだとの話まであるそうだ。2年前にワクチンはなかったのだが。24日には接種に反対する医師や地方議員ら450人が厚生労働省に嘆願書を提出した。間違った情報に惑わされる人がいないことを願うばかりである。こうした流れに危機感を抱いたのだろう。河野ワクチン担当大臣の対応は素早かった
▼同日、各局のテレビ番組に相次いで出演。ブログも更新し、デマを流す目的は自分の金もうけにつなげたいか、科学よりもイデオロギーにとらわれているかだとバッサリ。先頭に立ってデマを撃退する様子には、寺の門前で天邪鬼をこらしめる仁王の趣がある。