多くの親は深くうなずくのでないか。「親の愛は実に純粋である、その間一毫も利害得失の念を挟む余地はない」。『善の研究』で知られる哲学者西田幾多郎が1907年の随筆に書いた一節である
▼西田はその年1月に6歳の次女を亡くしたばかりだった。「亡児のおもかげを思い出ずるにつれて、無限に懐かしく、可愛そうで、どうにかして生きていてくれればよかったと思うのみ」。悲痛な叫びが記されている。そんな経験をしたい親は一人もいない。ただ、運命は時に残酷だ。千葉県八街市の市道でおととい、集団下校をしていた児童5人の列にトラックが突っ込み、2人が死亡する痛ましい事故があった。1人が意識不明の重体、2人が重傷という。わが子が「ただいま」と当たり前に帰ってくる日常を断ち切れられた親御さんの悲しみはいかばかりか
▼事故を起こしたのは近くの運送会社に勤める60歳の男だという。原因は捜査中だが、男の呼気から基準値を超えるアルコールが検出されているそうだ。報道によると男は東京へ荷物を運んだ後、会社に戻る途中で酒を飲んだらしい。道に飛び出した人を避けようとして電柱に激突し、その弾みで児童をはねたと話しているが、人がいた形跡は見つかっていない
▼居眠り運転との説もある。いずれにせよ飲酒が事故を招いたのは間違いあるまい。被害者にとって飲酒運転は通り魔と同じ。人殺しと呼ばれる前になぜ気づけなかったか。犠牲になった子どもたちの未来は理不尽に奪われた。親は元気に育ってくれさえすればと日々祈る思いだったろうに。