NHK教育の「ハーバード白熱教室」(2010年)で知られるマイケル・サンデル米ハーバード大教授の近著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)が面白いと評判なので早速読んでみた。現代社会の格差と分断に鋭く切り込んだ一冊である
▼教授は世の多くの人が信じる〝才ある人が努力したから成功した〟との常識に疑問を投げ掛ける。そう見えているだけで実際は違うのでないか、というのだ。理由は二つ。一つは家が裕福か貧乏かで人生が左右されること。もう一つは「自分がたまたま持っている才能を高く評価してくれる社会に暮らしていること」。いずれも自分の手柄とはいえず、問題は運がいいか悪いかだと説くのである
▼中国共産党の習近平総書記にもぜひこの本を読んでもらいたい。中国は今、米国に次ぐ世界2位の経済大国として栄華を誇っているが、全て自分たちの力だけで成し遂げたと思い違いをしているように見える。協調と平和の国際環境あればこその繁栄なのだが。「中華民族の偉大な復興」「台湾独立の動きを断固打ち砕く」「外部勢力のいじめや抑圧を許さない」。天安門広場で1日開かれた中国共産党100年記念祝賀式典での習近平氏のそんな演説に、危うさを感じた人も多いのでないか
▼国が成長したのは中国共産党の手柄。他国の意見を入れるつもりはない。これからも好きなように振る舞う。そんな宣言に聞こえた。サンデル教授の論考によると、幸運を自らの手柄とするのはうぬぼれだという。その自覚のない中国と民主主義国との分断は深い。