米国で綿花産業が一大躍進を遂げた経緯は、先住民の土地収奪と黒人の奴隷労働を抜きに語れない。1850年代には、アフリカなどから強制的に連れてこられた黒人約320万人が働いていたとされる
▼特に南部で顕著だった。先住民をだましたり強制的に追い出したりして大規模プランテーション(農場)を開き、そこで黒人を牛馬のようにこき使ったのである。安価な綿の輸入で英国の織物産業は大いに潤った。昔の話だからと歴史に閉じ込めてしまうわけにいかない。同じ構造の生産方式を持つ国が今もあるからである。危惧されている製品の一つが太陽光発電パネル。米通信社ブルームバーグによると、主要部品ポリシリコンの世界シェアのほぼ半分を中国新疆ウイグル自治区の工場で占めるという
▼ウイグルについては国連人権理事会がことし3月、「中国が強制収容や奴隷労働を行っている」と懸念を表明していた。米国は人権侵害を重く見て、綿に続き太陽光パネルも輸入禁止品目に追加している。それが気になったのは経済産業省が12日、2030年時点の電源別発電コスト試算を発表したとの報に触れたからだ。大規模太陽光が原子力を逆転し、初めて最安になったというのである
▼常時発電可能な電源と気象に左右される電源を単純比較するのもどうかと思うが、何より強制労働が安価の背景にあるとされる太陽光パネルを使って最安と評価するのがふに落ちない。パネルの8割は中国などからの輸入だ。日本のエネルギーがウイグル族の血と涙で作られるのを喜ぶ人はいないのでないか。