「アイアンショック」の足音 鋼材高値、リーマン前に迫る

2021年07月15日 10時00分

 鋼材価格が未知の領域に入ろうとしている。原料高騰を背景に、H形鋼、厚鋼板といった代表的な建材が今年に入って軒並み値上がりし、リーマンショック前の高値水準に迫る。このところ注目される木材価格の上昇と同じように、米国や中国の需要拡大に供給が追い付かず、日本にしわ寄せが及び始めた。事態は「アイアンショック」となって建設業界を今以上に圧迫するのか、予断を許さない。

異例の大幅値上げに耳疑う

 「値上げ幅に耳を疑った」。住宅建材商社、ネオトレーディング(本社・札幌)の阿部武士社長は7月初旬、レギュラーで扱ってきた金属サイディングの価格引き上げを取引先から知らされた。9月契約分から一気に17%。「数%なら以前もあったが、いきなり2桁、しかも2割近いというのは聞いたことがない」

 多くの鉄鋼製品が今、値上がりのさなかにある。大本は、鉄鋼大手各社が断続的にアナウンスする価格改定だ。国内最大手の日本製鉄は昨年来、鋼板をはじめ形鋼、鋼管などグループで供給する大半の製品価格を引き上げ中。2位のJFEホールディングス、またほかのグループも同様だ。

 値上げ額は1㌧当たり1万円以上の例が多く、製品によっては1―2割の価格上昇になる。今後の段階的な引き上げと合わせて、1年足らずの間に合計5万―6万円上乗せされる製品もある。

 JFEグループの屋根材商社で加工業者でもある北長金日米建材(本社・札幌)は目下、板金業者など取引先への状況説明に追われている。素材供給元からは今年に入って複数回の値上げ表明があった。商品営業部の金沢英樹部長は「今までは値上げがあっても年1回程度で、連続というのは異例中の異例。増額分は合計1㌧当たり6万円前後で、とても自助努力では吸収できない。取引先に丁寧に説明して理解を得るしかない」と話す。

 理解を示す取引先ばかりではない。別の鋼材商社幹部は「やむを得ず価格転嫁の話をすると、もっとメーカーと交渉してくれと厳しく言われることもある」と漏らす。

鉄鉱石価格が急騰 100%輸入で国産材活用の道なし

 メーカーが値上げの理由に挙げるのは、鋼鉄をつくる高炉で原料にする鉄鉱石の価格急騰だ。日本は100%を輸入に頼り、木のように国産材を活用するシナリオはない。世界銀行が公表する国際取引価格によれば、新型コロナウイルスが世界に広がった昨春は1㌧当たり80㌦台で停滞したが、中国が他国に先駆けて経済活動を再開したことなどをきっかけに夏以降は上昇。5月に初めて200㌦を突破し、6月は214㌦と空前の高値を付けた。

 もっとも、鋼鉄は鉄鉱石を使う高炉だけではなく、電気炉でも生産されている。解体ビルなどから出る鉄スクラップを電熱で溶かして再利用する「電炉材」だ。量は日本の鉄鋼生産の約25%ながら、高炉材の多くが自動車メーカーなどの製造業に流れるのに対し、電炉材は建設業向けをメーンとする。

 鉄スクラップは鉄鉱石と違って日本でも豊富にある。需給バランスが極端に崩れることはなさそうだが、実際には取引価格が上がっている。日本鉄リサイクル工業会によれば6月の道内鉄スクラップは1㌧4万6000円台。1年前の2倍強の水準だ。

 ここでも中国など海外需要の強さが要因となる。リサイクル業者が国内流通よりも、高値で売れる輸出を選ぶからだ。複数社合同でのスクラップ輸出を手掛ける関東鉄源協同組合によれば、輸出価格は19年11月以降20カ月連続で国内・関東の市場価格を上回った。

 こうして原料相場は昨年前半のうちに上昇トレンドに入り、約半年のタイムラグを経て、今春になって建材への影響が明らかになってきた。経済調査会発行の「積算資料」で札幌の資材価格を見ると、H形鋼はコロナ禍で需要が減り昨夏以降1㌧9万円に張り付いていたが、今年に入って上昇。6月は9万6000円とコロナ前を上回り、08年の10万台に迫ろうとしている。RC造の鉄筋に使う異形棒鋼は昨年末から上がり始め、6月は8万6000円と前年同月より1万円以上高くなった。

 リーマンショック前の時期も、鋼材価格は原料相場から半年―1年遅れて上がり始め、リーマンで原料が暴落した後に下落している。ここ半年の鋼材価格上昇はまだ「序の口」なのかもしれない。

工事コスト増、人手不足拍車 鍵に握る世界需給情勢

 鋼材高騰で、これから何が起きるのか。札幌市内の板金業者社長は「メーカーがトン当たりの価格を示すため分かりにくいが、われわれ板金業や工務店にすれば工事1m²当たりのコストが何百円も上がるということ」と指摘する。公共工事なら市況の変化に応じて一定の予算増額措置があるが、戸建てを含む民間建築はそうはいかない。社長は「このままでは利益が見込めず休廃業する小規模・個人事業者が続出し、現場の人手不足に拍車が掛かる。ウッドショック以上に深刻だ」と語る。

 マンションや商業ビルなど大型建築物は特に鋼材使用量が多く、コスト上昇は建設計画そのものに影響する。「販売額を上げるとしても、多くの人に買ってもらえる価格帯には上限がある」と話すのは札幌の有力マンションデベロッパー社長だ。「今後もこの調子で資材高騰が続くなら、供給ペースを計画より落とすことも考えなければならない」と明かす。

 「このまま上がり続けるわけがない。どこかで調整される」(鉄骨加工業者)、「下がる要素が見当たらない」(専門商社)。今後の鋼材相場を巡り、業界にはさまざまな見方がある。予測する上では、木材同様に世界の需給情勢が鍵となりそうだ。

 鋼材の需給を建設以上に左右するのが、製造業の動向だ。中国国家統計局が7月1日に公表した6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50・9で、景気拡大を示唆する50以上を16カ月連続で保っている。新型コロナのワクチン接種が広がる米国の需要も旺盛だ。6月のISM製造業景況指数は60・6と、やはり景気の分岐点とされる50を大きく上回る。これに加え、バイデン大統領は今後8年間で2兆㌦(約220兆円)規模のインフラ投資構想を打ち出し、法制化に向けて調整を進めている。実現すれば大規模な鋼材ニーズが米国で生じることになる。

 世界の動きを見ながら先を読み、手だてを考えられるか―。「アイアンショック」の足音が、道内建設業界にそう問い掛けている。

(北海道建設新聞2021年7月14日3面より)


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