洋の東西を問わず、昔から大勢で一斉に作業をするときには仕事唄や労働歌と呼ばれる民謡が歌われてきた。皆の心をまとめると同時に一定のペースを維持するためである。日本なら田植え歌が有名だろう。全国各地に固有の歌がある。明治期に入ってからは炭鉱でも多くの歌が作られた
▼同じ目的を持つ者たちが声を合わせて歌うと不思議な一体感が生まれ、格段に作業がはかどる。経験のある人も多いのでないか。木遣り唄もその一つ。今では正月の出初め式や祝賀行事でしか聞く機会はないものの、元は鳶の職人たちが大木や岩を運んだり地固めをするときに歌っていたそうだ。その唄が23日の東京2020オリンピック開会式の各国選手団入場行進前にいきなり響いたのには驚いた
▼江戸消防記念会有志が勇壮にまといを振り木遣りを披露する中、棟梁に扮(ふん)した女優の真矢ミキさんがてきぱきと大工たちに指示を出す。全員が力を合わせ、一生懸命に作っていたのは木製の大きな五輪マークだった。使われた木材は前回東京五輪に参加した国が当時持ち寄った種から育てた木の間伐材だという。過去と現在を結び、世界の一体感を演出しながら木の文化を持つ日本の美しさにも触れてもらう。その全てをつなぐ仕掛けに木遣りを使う発想が斬新だった
▼今大会には国・地域・難民合わせ206選手団が参加している。これだけ集まれたのは比較的新型コロナ感染の程度が軽い日本だからだろう。開けて良かった。五輪は平和を実感できる貴重な機会だ。皆で声を合わせ、最高の大会をつくりたい。