「黒い雨」訴訟

2021年07月28日 09時00分

 元世界銀行副総裁の西水美恵子さんは、国のリーダーの条件に「頭とハートが繋がっている」資質を挙げる。それはこんなところに表れるそうだ。「国民の幸せを口先だけの意とする国政と、成すことすべての焦点として本腰を入れる国政は、政策の選択が異なる」

 ▼見掛けは同じでもリーダーに真の思いやりがあれば行政の質は根本から変わるというのである。『国をつくるという仕事』(英治出版)に記していた。これも思いやりの表れだろうか。菅首相が26日、いわゆる「黒い雨」訴訟で国が上告しないと決めたことを明らかにした。広島に原爆が投下された直後の放射性物質を含む雨の影響で、健康被害を受けたとして住民などが訴えていた裁判である。報道によると首相は会見で、「多くの方は高齢者で病気の方もいるため、速やかに救済させていただく」と述べたという

 ▼一、二審は共に原告の訴えを認め、全員への被爆者健康手帳の交付を求めたが、厚生労働、法務両省は上告すべきとの意見だった。「黒い雨」と原告の身体状態の因果関係は明確でない。今後の行政への影響を考えると、判決の確定は避けたいと思うのが官僚というものだろう。しかし救済を待つ人が現に大勢いる。頭とハートがつながった政治決断が必要だった

 ▼支持率回復と衆院選勝利のための材料にすぎないとの批判もある。その狙いがないわけはあるまい。ただ、どんな形にせよ前例主義を突き崩さない限り事態は一歩も進まない。原告も率直に感謝の意を表明していた。思いやりが本当なら、行政の質も変わるはずだ。


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