日本を含む東アジアの地図を逆さまにして眺めたことのある人はどれくらいいるだろう。普通の地図を見ると日本は海に囲まれた国との印象が強い。ところが逆さまにすると太平洋に張り出したユーラシア大陸の一部という別の姿が浮かび上がってくるのである
▼実際、5000万年前までは大陸と一体だった。その後少しずつ分離は進んでいったが、北海道と大陸は最終氷期が終わる1万年前まで地続きだったのだ。津軽海峡も現在ほどの幅はなく、大きな川が横たわっている程度だったという。1万5000年前頃に出現した縄文人が暮らしていたのは、そんな世界である。活動が広範囲に及び、他の地域との交流が盛んだったのも当然だ。かつては未開のイメージが浸透していたものの、今では想像以上に高い精神文化が育まれていた事実が分かっている
▼先日、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界文化遺産登録が正式決定した。生き生きとして力強い縄文人の真の姿をより多くの人が知ることになろう。構成資産は本道の大船遺跡やキウス周堤墓群、青森の三内丸山遺跡、岩手の御所野遺跡、秋田の大湯環状列石など全17カ所。いずれも高い精神性や豊かな生活文化を現代に伝える遺跡ばかりだ
▼関連資産だが当方も森町の鷲の木遺跡を訪れたことがある。二重列石の巨大さとその整った造形に心を揺さぶられた。コロナ下で旅もままならないが、落ち着いたら遺跡群を巡ってみたい。縄文人の目で今の世界を眺めるのも一興でないか。地図を逆さまにしたときのように別の発見があるかもしれない。