中国広東省の深圳(しんせん)市は1980年8月に経済特区の指定を受けるまで、ひなびた漁村にすぎなかったという。それが今では人口1300万人を擁する国際都市に成長。「アジアのシリコンバレー」と称されるまでになった
▼外資系生産企業を数多く呼び込むため、大胆な優遇策を惜しみなく打ったことで知られる。政府によるインフラ整備をはじめ、所得税の減免、輸入関税の免除など至れり尽くせりだ。域内GDPは40年で1・4万倍の約45兆円(2020年)に膨らんだというから、中国としては笑いが止まるまい。それを横で見ていたロシアが、あわよくばわが方も同じ夢をと考えたとしても不思議はない。ロシアの要人が相次いで北方領土での特区構想に言及している
▼報道によると、やはり進出する外国企業の各種税金を大幅に減免するようだ。近いうちに準備を終える予定とも伝えられる。外資を導入した大規模開発でロシアの領土だと国際的に認めさせられれば一石二鳥との思惑らしい。日本人の神経を逆なでするやり口だが、強硬に正面突破を図るところがいかにもロシアである。うまくいくはずがないとの油断は禁物だ。サハリンでは大手石油メジャーを引き入れた実績があり、日本企業との合弁事業も進めていた。トラブルも多いがノウハウはある
▼日本が手をこまねいているうちに、既成事実を積み重ねられかねない。北方領土に対する政府の声が、このところ蚊の泣くように小さく聞こえるのは気のせいか。「北方領土は日本固有の領土」を何度でも主張する必要があろう。