福島智東大先端科学技術研究センター教授は盲ろう者で初めて大学の常勤教授になった人である。病気のため9歳で失明、18歳で聴覚も失った
▼絶望してもおかしくない状況だが、嘆き悲しむ祖父に智さんはこう言ったそうだ。「いま悲しんで泣いてるより、これから先、どういうふうに生きていったらいいかを考えるほうが大事だと思ってるんだよ」。母令子さんが失明した当時の様子を月刊『致知』に記していた。「お祖父ちゃん、僕は大丈夫だからね」。そのひと言を伝えることも忘れなかったという。祖父を悲しませまいと気丈に振る舞ったのかもしれないが、自らの決意を示す本心でもあったに違いない。「どういうふうに生きていったらいいか」。障害のある人全てがまず向き合わねばならない問いだろう
▼その問いに答えを出した人々が今、日本に集まっている。東京2020パラリンピックがおととい開幕した。161カ国・地域と難民選手団から合わせて4403人のパラアスリートが参加する。開会式の入場パレードで紹介された各選手の障害の理由の多様さに驚かされた。「生まれたときから両腕がない」「目に矢が刺さり失明した」「戦争の爆撃で両足を失った」「交通事故で半身不随になった」。彼らはそれでも人生を諦めたりはしなかった
▼実は世界で15%の人が何らかの障害を持っているのだとか。少ない数ではない。そろそろ障害というより個性と見た方がいいのかも。選手たちは競技を通し、可能性は誰にでも開かれていることを教えてくれる。「みんな大丈夫だからね」と。