若いころに仲間と深夜まで酒を飲んでいて、ちょっと小腹がすいたときにはカップ麺をすすることが多かった。1個しかない場合はみんなで回して食べたりして。「おい、お前は一口が大きすぎだ。俺の分も残しておけよ」といった具合である。同じ経験を持つ人は少なくないのでないか
▼「ハロー 夜。ハロー 静かな霜柱。ハロー カップヌードルの海老たち」穂村弘。寒い夜に食べる熱々の麺もまた格別である。そんなカップ麺の元祖で穂村さんの歌にもある「カップヌードル」のブランド累計世界販売食数が5月末で500億食を超えたそうだ。日清食品が25日発表した。1971年9月発売だから、ちょうど50年目の大記録達成である
▼数が大きすぎてピンとこないが、カップの高さが約10㌢だから、重ねると地球と月を6往復以上できる計算だ。食べも食べたりである。今は世界100カ国で販売され、その国独自の味も多い。糖質や塩分を控えめにした品など種類が豊富なのもこの商品の特徴だろう。開発した創業者安藤百福の慧眼(けいがん)には驚くほかない。戦後食糧難で米国から大量に入ってきた小麦はほとんどパンになった。どうして日本人の好きな麺にしないのかと疑問を抱いた百福はまず世界初の即席麺「チキンラーメン」を発明。そのノウハウをカップヌードルに結実させた
▼人々が本当に食べたいものを見抜き、工夫を重ね続けた結果の500億食というわけだ。「ハングリー?」と聞かれずともなぜか時々食べたくなる。懐かしい思い出が隠し味になっているのかもしれない。