日本語学者森田良行氏が著書『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)に、「流れる」の付いた言葉には「ろくでもない事柄ばかりしかないようだ」と記していた
▼流れ弾、流れ者、流れ歩く、質流れ。並べられた幾つかの例を見ると確かにその通り。外から働く勢いに負けて本来の位置からずれていく現象を表すため、「常軌を逸する」「自己を失う」といったマイナスの印象が定着したのだと氏は説明する。あまり良い印象がないのには雨が多い日本の気候風土も大いに関係しているのでないか。堤防が決壊して家が流されたり、土石流が発生して集落が飲み込まれたり。「流れる」の言葉にはとかく自然災害の影がつきまとう。ことしも梅雨時から今月にかけて常軌を逸する長雨や豪雨が相次いだ
▼「秋出水まっすぐ我に向かって来」久保田孝子。秋出水とは川の氾濫による洪水を指す秋の季語である。きょうは防災の日。由来は関東大震災にあるが、この時期に多い台風への備えも呼び掛けるものだ。三つが上陸、一つが最接近して本道に甚大な被害をもたらした2016年の台風も8月中旬から月末にかけての今頃だった。そこで得られた多くの教訓と難しい災害復旧に心血を注いだ関係者の奮闘は、きのうまで本紙1面で連載していた「連続台風から5年」に詳しい
▼使い古された言い方ではあるが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という。人は日常に流されているうち、大切な教訓も忘れてしまうものだ。機会あるごとにこういった事例などに触れ、災害への思いを新たにする必要があろう。