まずありえない事象が現実に起こってしまうことを「ブラック・スワン(黒い白鳥)」という。不確実性科学とリスク管理について研究する認識論者ナシーム・ニコラス・タレブが同名の著書(ダイヤモンド社)で提唱した考え方である
▼その特徴は「普通は起こらない」「とても大きな衝撃がある」「事後には予測が可能」の三つ。世の中が大混乱に陥った後で、この簡単なことがなぜ分からなかったかと嘆くのだ。典型的な例が2001年のきょう起こったアメリカ同時多発テロ事件である。あれからもう20年もたつとは信じられない。イスラム過激派テロリスト集団アルカイダにハイジャックされた旅客機が、ワールドトレードセンターに次々と突っ込んでいく映像は多くの人の脳裏にいまだ焼き付いたままでないか
▼当時、備えは薄かった。テロは容易だったと識者も後から指摘している。あの日を境に、米国のみならず世界は大きく変わった。テロとの戦いが国際的な最優先事項の一つになったのである。NHKが先日、興味深いニュースを伝えていた。最近実施された米国の世論調査で、「自国がテロの脅威からより安全になった」と考える人が10年前と比べ大幅に減少したというのである。テロとの戦いに費やしたこの20年で、安心感は醸成されなかったらしい
▼掃討したはずのタリバンが先月、再び支配者としてアフガニスタンに戻ってきたのも不安に拍車をかけているようだ。何よりブラック・スワンの存在に皆が気付いてしまった。できるのは羽ばたかせないよう知恵を絞ることのみである。