新型コロナウイルスは一体いつまでのさばるのかと、ほとほと嫌気がさしている人も多いのでないか。終わったらあれをしたい、これもしたいと思い描いている人も少なくあるまい
▼詩人の小池昌代さんは、この事態が収束したときの象徴的な風景として「ヒトとヒトとの抱擁」を挙げていた。エッセー「抱擁」に記している。感染拡大を防ぐため人と人との間に不自然な距離を置かねばならないことへの反動だろう。そんな無粋な距離が男女の出会いにも影響しているに違いない。気になる統計を目にした。10日に公開された国の人口動態調査によると、2020年の婚姻件数(確定値)が前年比12.3%減の52万件にとどまったというのである
▼地域別でも北海道10.7%減、東京14.1%減、福岡11.8%減など軒並み1割以上落ち込んだ。婚姻件数は近年少しずつ減る傾向にはあったものの、それでも年2―3%程度。単なる延期もあるが、知り合う機会の喪失や先行き不安での諦めも多々あるとみられる。ウイルスは体だけでなく、社会にも深刻な害を与えているようだ。出生数の鈍化に加え結婚も減るとなると日本の未来は暗い。行動制限緩和の話をかたくなに避ける専門家もいるが、早めに検討に入らねば将来世代に禍根を残そう
▼小池さんはエッセーで想像を膨らませる。「向こうから、わーっと大きく手を広げながらやって来るヒト。迎え入れるヒト。背中に回された手。肩の上からのぞく顔。一対の人々」。そんな真っ直ぐで温かな感情表現が、何の心配もなくできる日が早く訪れるといい。