実用化へ実証実験 ネット・マットなど開発中
理研興業(本社・小樽)は、エゾシカなどの獣害対策として木質バイオマス発電で出る副産物「木(もく)タール」を使った忌避製品の実用化を目指している。ポリエチレン樹脂と混ぜたネットやマットなどを開発中で、北海道開発技術センターとの共同研究を通して効果を確認した。トウガラシに含まれるカプサイシンを使った製品の開発も進めていて、スパイラル構造のカバーをネットに取り付けて対策するなど検討中だ。
獣害は道路、鉄道、農林業と幅広く課題となっていて、現状は侵入防止柵を設置したり忌避材を散布するなどして対策する。同社では既設の侵入防止柵を活用した忌避材を開発することが、大掛かりなコストが掛からず身近な獣害対策になると判断し、研究を重ねている。
開発は「鹿を痛めない、人をケガさせない」という〝共存〟がテーマ。これまで動物と人の領域間には田畑など境界があったが、最近は少なくなり人の生活圏で影響を及ぼしている。忌避製品を開発することで、互いの境界を再構築しようという開発姿勢だ。
動物が苦手とされるカプサイシンにポリエステル樹脂を混ぜた「カプサイシンスパイラルカバー」を開発した。ネットやポールなど構造物に簡単に取り付けられ、被害の多い箇所でのピンポイント対策が可能。高い位置に設置すると、冬場に雪が積もっても効果を維持できる。高耐候の透明ウレタン樹脂と混ぜた「カプサイシン樹脂塗料」も効果的と考える。
木タールを使った忌避製品の開発も急ぐ。木タールは木材加熱時の抽出物の一つ。入浴剤や石けんの原料となる木酢液の蒸留による残りかすで、多くは産業廃棄物として処分される。同社では樹脂に練り込むことで耐久性を持たせ、ネットやパイプ状に成型して使えるのではないかと研究を重ねている。
臭いの効果が長期に続くよう、木タールをポリエチレン樹脂に混ぜ込み、ネットとマットを試作した。ネットは既設の構造物に固定金具で取り付け、マットは地面にピンで固定して使う。どちらも場所を選ばず簡単に設置できる。木タールを含んだ樹脂は鉄線に被覆して使ったり、スパイラルカバーに成型して支柱に取り付けるなどの方法も考えている。
実用化に向け、西興部村や別海町で実証試験を重ねる。鹿の生態で多くの知見を持つ北海道開発技術センターと共同で実施。西興部村鹿牧場では飼育されている鹿の反応を調べるため、柵の反対側に忌避材を取り付けたところ、カプサイシン、木タールとも拒否反応を示した。今後は餌場付近に製品サンプルを設置し、行動をモニタリングする計画だ。別海町では野生の鹿を対象に、気象条件など加味しながらセンサーカメラでモニタリングを続けている。
小樽市銭函の本社敷地では、製品サンプルを実際に取り付けた暴露試験を実施。今後は研究開発のスピードを上げるため、経済産業省の事業再構築補助金などを活用しながら、本社近くに研究施設を設け、太陽光や温・湿度など屋内外の条件を人工的に再現した「サンシャインウェザーメーター試験」などを進める予定だ。
道警のまとめによると、鹿が関係する道内の交通事故は20年で3511件発生し、4年連続で最多記録を更新した。札幌方面が1428件と最も多く、釧路、旭川方面と続く。
さらに農林水産省によると、2018年度の全国の森林被害面積は約5000haで、鹿による被害が約7割を占めた。鹿や猿などの野生鳥獣による農作物被害は158億円。鹿の獣害は道路走行中の衝突事故だけでなく、森林や農作物に被害を与える地域課題といえる。
柴尾幸弘副社長は「道内は木質バイオマス発電が増え、副産物の木タールが多く出ることが予想される。産業廃棄物の削減にも効果があり、木タール、カプサイシンによる忌避材を早く実用化させたい」と話している。
(北海道建設新聞2021年9月22日付3面より)