日本人には新しもの好きが多いといわれている。商品でもサービスでも新しいものが出るとすぐに飛びつき、今まで使っていたものにはもう見向きもしない
▼例えば車ならメーカーからニューモデルが発表されると、乗り換えたくて仕方がなくなったりする。実は基本性能や機能は従来のモデルと大して変わってもいないのだが、華やかな見た目と宣伝文句で新しさをアピールされると、簡単に心を動かされてしまう。政治学者の京極純一氏は『日本人と政治』(東京大学出版会)で新しもの好きの理由を、明治維新や太平洋戦争敗戦といった価値観の一大転換を乗り越えねばならなかった国民的事情の中に見つけていた。文明開化や民主主義など新しいものは素晴らしいという見方が、人々に根付いていったらしい
▼新しいものへの傾倒はまず政治方面から始まったのである。首相交代劇にこれだけ注目が集まるのもむべなるかな。自民党の岸田文雄氏がおととい、第100代首相に指名され、新内閣が発足した。一連の交代劇のさなかに行われた各種世論調査で自民党の支持率が軒並み上昇に転じたのも、新しいものへの期待が高まったからだろう。これを好機と岸田首相も一気に勝負を懸けてきた。衆院選の日程を予想より1週間ほど早い19日公示、31日投開票としたのである
▼ニューモデルとして発表した内閣の性能も機能も未知数のまま、新しさだけで買ってもらおうというのだ。宣伝文句通りならいいが、時に選挙は車より高くつく。野党のモデルとの違いも見極めながら、慎重に投票先を考えたい。