一般相対性理論や光電効果など数多くの物理現象を解明した理論物理学者アルバート・アインシュタインを語る上で欠かせない一本の数式がある。質量とエネルギーの関係を示す「E=mc₂」だ
▼世界で最も有名な数式とも呼ばれるため、ほとんどの人は目にしたことがあるのでないか。Eがエネルギー、mが質量、cが光速度を指す。物質とエネルギーは等しく、置き換え可能である事実を簡明に記述したものだ。たった5文字に宇宙の全てを集約したのである。複雑な自然現象をこうした簡明な数式で表すのは世界中の科学者の憧れに違いない。5日にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎米プリンストン大上席研究員(90)にもそんな優れた才能をほうふつとさせる逸話があった
▼東大大学院気象学研究室で学んでいたとき、先生が出した「大気循環について知るところを記せ」とのレポートの課題に数式を4本だけ書いて提出したそうだ。他の人が文書に図と写真を加え8ページほどを要した課題である。同学の駒林誠氏が『人と技術で語る天気予報史 数値予報を開いた〈金色の鍵〉』(古川武彦、東京大学出版会)で、「大循環を一番先に一番いい方法で解いた」真鍋氏だからこそだと振り返っていた
▼1958年に渡米し、60年代後半には早くも二酸化炭素など温暖化ガスが地球規模の気候変動に影響を与えると予測していた。まさしく先駆者。今回の受賞理由は〝地球温暖化を予測する地球気候モデルの開発〟。氏の生み出した簡明なモデルを武器に今、人類は危機を乗り越えようとしている。