冷涼気候、外気冷房で消費電力4割減
さくらインターネット(本社・大阪)の石狩データセンター(DC)が稼働開始から10年を迎えた。冷涼な気候を空調に生かし、道内外で約4万者の顧客にITインフラを提供する。官公庁や公共交通に携わる顧客も擁し、北海道胆振東部地震のブラックアウト時は非常用発電機を用いて稼働を続けた実績を持つ。現行の3棟に加えてさらに2棟の新設を計画。石狩DCは道内で産業集積を進める将来性を示唆している。
DCは大量のサーバーを収容し、インターネット接続サービスや保守・運用サービス、大規模クラウドサービスなどを提供する施設だ。
石狩湾新港地域の石狩DCは2011年に1・2号棟、16年に3号棟が竣工。総延べ床面積2万4000m²、全体敷地面積5ha超の大型DCだ。サーバーを格納するラックは最大3000個を設置可能で、今は余力を保ちつつ稼働。50人ほどが設備や通信の維持管理などに従事する。
同社は全国の数十拠点を検討した上で最終的に石狩を選んだ。最大の理由は冷涼な気候だ。DCはライフサイクルコストの半分を電力料金が占めるといわれ、特にサーバーを冷やすために大規模な空調稼働を要する。石狩はほぼ通年での外気冷房が可能ため、一般的な都市型DCと比べて消費電力を4割も減らせているという。
前田章博取締役は「北海道の電力料金は高いが、外気冷房はそのコストをものともしない大きなアドバンテージ」と強調する。1・2号棟は外気を直接取り込み、3号棟では鹿島の設計施工による間接外気冷房方式を採用。湿度変動がないため、さらに省エネを図ることができた。
石狩の優位性として札幌市に隣接し、人材を確保しやすいほか、他企業や住民との交渉に市が協力してくれる点、土地が広く安価な点などを挙げる。風力発電など再エネの地産地消がしやすい点も企業の脱炭素が求められる中で魅力だ。
石狩DCも再エネ導入に積極的で、15年に敷地内で建設した出力200㌔㍗の太陽光発電所は全体電力量の1%弱を供給する。ことし6月には電力調達先をガス火力発電を主とする電力会社に変え、CO排出量を4分の1も減らせたという。再エネ100%の目標時期を設定中で、電力調達の具体案を検討しながら条件が合えば大型蓄電池の設置にも取り組みたいという。
立地環境の整う石狩や、道内では同社に続くさらなる進出が期待される。DCニーズは全国的に増大が見込まれ、「さまざまな地方から立地のアプローチが来ている」と前田取締役は明かす。石狩湾新港地域でも京セラコミュニケーションシステム(本社・京都)が、再エネ100%のDCを計画中だ。
政府はこのほど、DC整備推進に向けた有識者会議の初会合を開いた。面積ベースで60%のサーバー室が関東、次いで24%が関西に集中する中で地方分散を目指して企業への財政支援策を検討する。6月に閣議決定した成長戦略に基づき、5カ所程度の中核拠点と10カ所程度の地方拠点整備を支援する。
社会全体のDX推進に加え、自動運転や遠隔医療など最先端技術の普及に伴い、データ流通量は爆発的に増えると予測される。インフラとしてのDC整備が喫緊の課題となる中、適地である北海道の重要性が高まっている。
(北海道建設新聞2021年10月25日付3面より)